DIAN研究と認知症予防

新オレンジプランの重点施策の中に、3.若年性認知症施策の強化と7.認知症予防法の研究開発等という柱がある。

2007年に米国のワシントン大学で始まったDIAN(Dominantly Inherited Alzheimer Network)研究は、家族性アルツハイマー病患者とその家族に先端医療の手を差し伸べ、無症候性キャリアの子供たちの発症を予防することを目的としている。

この研究のお陰で、アルツハイマー病のメカニズムと発症予防への道筋が明らかになりつつある。

家族性アルツハイマー病の原因遺伝子としては、APP、PSEN1、PSEN2の3つが知られている。(プレセニリン2遺伝子は、DIAN研究の前段階の研究において発見された)
これらの遺伝子変異がある場合の浸透率は100パーセントで、無症候性キャリアの子供たちは、親の発症年齢になると全員アルツハイマー病を発症する。

DIAN研究の中で、アルツハイマー病患者の認知機能が発症の15〜10年前から部分的に低下し、記憶に関係する脳の海馬の容積が縮小したり、楔前部の糖代謝が10年ほど前から低下していることなどが明らかになってきた。

またアルツハイマー型認知症が発症した時が脳内のアミロイドベータの蓄積量がピークであり、進行するにしたがって低下する。これに対して脳脊髄液中のタウ蛋白の方は、進行に従って増加していく。これは認知症の発病以降、ますます神経細胞が死滅していくからだろう。

現在アルツハイマー病に用いらている医薬品は、情報シグナルに関わる薬で、原因や病理に直接作用するものではない。

アミロイドベータに対するワクチン治療は、進行した患者にあっても老人斑を消去することができたが、認知症に対しては、炎症が強く起こり過ぎて効果が無かったりかえって有害であった。

近年アルツハイマー病の予防・治療ターゲットは、軽度認知障害、自覚的認知障害などの認知症発症前の段階において、毒性の強いオリゴマーやタウ蛋白を如何にコントロールするかに移ってきている。

 

生活習慣病の管理で認知症を予防する

現在我が国では軽度認知障害(MCI)と認知症を合わせ900万人の高齢者が何らかの認知機能障害を有する。そしてこの数は今後速いスピードで増加すると考えられている。

世界的に見ても、2050年には認知症患者数は1億人を超え、発展途上国、特にアジアに置いて増加すると考えられている。

一方で米国やヨーロッパの一部の国では、ここ最近認知症の有病率が低下している。その理由として、1つには教育期間の延長があり、もう1つには生活習慣病の管理が良くなったことが挙げられている。つまり基礎疾患自体は増加しているが、脳卒中などの合併症は減少しているのだ。

認知症の危険因子の65%は介入出来ないが、介入出来る35%には、中年期における肥満、高血圧、糖尿病などがある。

特に中年期の厳格な降圧療法で、MCIの発症を19%抑制できることが明らかになった。

ReCODE法などの多因子介入がMCIや初期認知症の治療法として話題になっているが、やはり臨床医としては生活習慣病の予防と管理を忘れてはならない。

百寿者から学ぶ認知症予防

百寿者から学ぶ認知症予防(慶応大学百寿総合研究センター 新井康通先生)
○長寿化は世界的傾向
○百寿者は90歳まで自立
○健康長寿への道
 1.両親が長寿(遺伝)
 2.病気にならない生活習慣と環境
 3.前向きな性格・心理(8~9割が女性。夫や子供に先立たれる可能性があっても乗り越える)
 4.社会的サポートに恵まれている
 5.病気や身体障碍のコントロール
○百寿者の特徴
 1.動脈硬化が少ない
 2.喫煙率が低い
 3.飲酒率は一般人と変わらない
○百寿者の病歴
 1.ほとんどの百寿者が何らかの病気を持っている
 2.高血圧が多いが、服薬率は30%程度
 3.女性が多いので、骨粗しょう症・骨折が多い
 4.脳卒中、癌、糖尿病は少ない
 5.肥満は少ない
○百寿者の余命に関連する因子
 1.ADL(元気度)がよい
 2.アルブミンが高く栄養状態がよい
 3.認知機能が良い
 4.炎症マーカーが低い(炎症レベルが低い方が長寿)
 5.フレイルの程度
○百寿者と魚食
 EPA/DHAは炎症を抑え、動脈硬化や骨格筋脆弱化を防ぐ可能性がある。
 赤血球膜中のEPA/DHAが高い男性は、炎症マーカーが低い。女性では炎症マーカーとの相関がみられないが、中性脂肪は低い傾向。
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